研究科長・学部長挨拶
口腔を通じたウェルビーイングを!
東北大学大学院歯学研究科長・歯学部長小坂 健 (Ken Osaka)
口の機能とは何でしょう?もちろん、呼吸をする、飲食をするといった生命の維持に直接関わることから、例えば吹奏楽の楽器を演奏するといったこともあるかもしれませんし、歌を歌うといったこともあるでしょう。そして社会の中で生きるために必要なのがコミュニケーションです。
そういった非常に大事な役割のある口腔を様々な切り口で研究や臨床を通じて世の中に貢献しようとしています。
私たちは、このような口腔の役割を再認識し、歯学の新しいコンセプト「インターフェイス口腔健康科学(IOHS: Interface Oral Health Science)」を提示してきました。IOHSでは、口を3つのシステム、すなわち、口を形作る私たちの組織(歯、口腔粘膜、筋、骨など)、そこに生息する膨大な数の微生物(口腔マイクロバイオーム)、そして歯科治療に欠かせない歯科生体材料から成るものとし、そこに咬合力などの複雑な力が加わる一種の「生態系」と捉えています。う蝕や歯周病などの口腔疾患の多くはこれらシステム同士が接する「インターフェイス」で生じており、これらのインターフェイスを健全に保つことが口腔疾患を予防し、口腔機能の維持・向上に繋がります。さらに、口腔そのものが外界とのインターフェイスであり、社会で生きるために他人とコミュニケーションを取っています。そして、これらの口腔機能が健全であることが、我々のウェルビーイングにとって欠かせないものです。
歯学研究科は歯学部設立の7年後、1972年に設置され、指定国立大学・東北大学にある歯学研究科として、「研究第一」「門戸開放」「実学尊重」という東北大学の理念に基づき、教育研究に力を注いできました。2002年にIOHSという新コンセプトを提示し、歯学研究の進むべき方向性を明示して以来、様々な取り組みを行っており、2020年度から新たに始めた「革新的食学」はその代表例です。これらの事業は歯学研究科単独ではなく、東北大学金属材料研究所、同医工学研究科、同工学研究科、同農学研究科等、さらには他大学との連携で行われており、「異分野融合・異分野連携研究」の先駆けとして「研究第一」の理念を実現してきました。これら事業の機動的推進を目的に、研究科には「歯学イノベーションリエゾンセンター」があり、各研究室と海外、企業、行政とを繋ぎ、研究の海外展開や医療機器開発を通した研究の社会還元(社会実装)を強力に進めています。2004年には歯科医療、口腔保健の裾野の拡大と歯学教育研究の「門戸開放」を目的に、日本で唯一の歯学研究科修士課程を開設し、コデンタル、コメディカルから工学、栄養学、保健福祉・医療行政等、幅広い専門領域、多彩なキャリアの方々が本研究科で学んできました。2020年度からは定員を増やすとともに博士課程との接続と連携を強化し、歯学研究の拡大を目指しています。
研究科の国際力も高く、歯学教育研究のアジア拠点として、世界有数の歯学拠点校との国際連携による教育研究を実践しています。なかでも北京大学、四川大学、ソウル大学等とは、2012年よりアジア・スタンダードの歯学教育・歯科医療の確立を念頭にダブルディグリー・プログラム(2つの大学から学位授与)を行っており、大学院生の約1/4は留学生です。2021年には、これまでの国際展開の実績から、歯学系で唯一、文部科学省「大学の世界展開力強化事業(キャンパスアジア・プラス)」に採択され、アジアの基幹大学との共同教育が格段に広がりました。国籍に関係なく、同じ歯学を志す学生として切磋琢磨する環境が日常となることは、今後、グローバル社会での活躍を期待される若い学生諸君にとって大きな魅力だと思います。
東北大学は、東京帝国大学、京都帝国大学に次いで日本で3番目に設置された旧帝国大学を前身とし、現在はこれらの旧帝国大学とともに指定国立大学となった総合大学です。Times Higher Educationの評価では国内で第一位の評価を受けております。多くの学術的資産と優秀な人材に恵まれ、世界に誇る業績を創出し続けており、日本の将来の礎(いしずえ)となるように努力しています。