生体適合性計測工学寄附講座
分野の紹介
活性酸素とは、酸素分子が電子の授受を介してより反応性の高い化合物に変化したものをいい、一重項酸素、スーパーオキシドアニオン、水酸化ラジカル、過酸化水素などが含まれます。
生体内では生活習慣病の原因の一つに活性酸素があげられたり、ヒ素などの重金属誘発性の発癌などにも活性酸素が関与すると報告されたり、悪い側面ばかりがよく論じられています。しかし、ある種の白血球は活性酸素を産生することで細菌などの微生物を攻撃しますし、ある種の抗生物質や抗がん剤は活性酸素を生成することで病原性微生物やがん細胞を攻撃し効果を発揮することが報告されているように、活性酸素は必ずしも生体にとって悪影響を与えるだけではありません。
われわれの研究室では活性酸素の中でも特に不対電子を有するラジカルを計測・制御する技術を確立し、応用していく研究を進めています。歯科領域に関しては、消毒剤であるオキシフルに光を照射することで酸素ラジカルを生成させ、口腔内の病原性微生物の殺菌に応用する研究を行っています。
ラジカルは半減期が非常に短いため、計測にはラジカルを安定化させる技術と電子スピン共鳴装置などの光学分析機器が必要となります。ラジカルの半減期が短いという点は、計測・制御を困難にしていますが、生体に対しては残留性の心配が全くないという利点にもなりますので、今後のさらなる活用が期待されます。
教員構成
教授：庭野 吉己
主な研究テーマ
- 過酸化水素の光分解、水の超音波分解によるラジカル生成機構
- ラジカルの殺菌メカニズムの解明
- ラジカル殺菌技術の応用
- 生体内酸化還元反応の制御機構
- 生体内で生成する活性酸素・ラジカル計測技術の確立
最近の業績
- Harada A, Nakamura K, Kanno T, Inagaki R, Örtengren U, Niwano Y, Sasaki K, Egusa H. Fracture resistance of CAD/CAM-generated composite resin-based molar crowns. Eur J Oral Sci, (in press). 強質レジンクラウン強度低下の原因はクラウン制作過程における気泡の混入が一因であることを明らかにした。
- Nakamura K, Ishiyama K, Sheng H, Ikai H, Kanno T, Niwano Y. Bactericidal activity and mechanism of photo-irradiated polyphenols against Gram-positive and -negative bacteria. J Agric Food Chem, (in press). ポリフェノールの光酸化により生成した水酸化ラジカルによる殺菌効果を証明した。
- Mokudai T, Kanno T, Niwano Y. Postantifungal-like effect of sublethal treatment of Candida albicans with acid-electrolyzed water. Arc Oral Biol, 60(3):479-487, 2015. 酸性電解水による抗微生物活性は、細胞内で生成された活性酸素によることを証明した。
- Toki T, Nakamura K, Kurauchi M, Kanno T, Katsuda Y, Ikai H, Hayashi E, Egusa H, Sasaki K, Niwano Y. Synergistic interaction between wavelength of light and concentration of H2O2 in bactericidal activity of photolysis of H2O2. J Biosci Bioeng, 119(3):358-362, 2015. H2O2光分解殺菌技術において光の波長とH2O2濃度の組み合せにより殺菌効果を増強できることを証明した。
- Kurauchi M, Niwano Y, Shirato M, Kanno T, Nakamura K, Egusa H, Sasaki K. Cytoprotective effect of short-term pretreatment with proanthocyanidin on human gingival fibroblasts exposed to harsh environmental conditions. PLoS ONE, 9(11):e113403, 2014. プロアントシアニジン短時間処理によるストレス負荷ヒト歯肉線維芽細胞に対する細胞保護効果を発見した。
- Tada M, Kohno M, Niwano Y. Alleviation effect of arbutin on oxidative stress generated through tyrosinase reaction with L-tyrosine and L-DOPA. BMC Biochem, 15:23, 2014. メラニン生成過程で生成する酸化ストレスは、チロシナーゼ阻害剤により軽減することを明らかにした。
- Tsuruya M, Niwano Y, Nakamura K, Kanno T, Egusa H, Sasaki K. Acceleration of proliferative response of mouse fibroblasts by short-time pretreatment with polyphenols. Appl Biochem Biotechnol, 174(6):2223-2235, 2014. 各種ポリフェノールの１分間処理によるマウス線維芽細胞の増殖促進作用を見出した。
- Niwano Y, Kanno T, Iwasawa A, Ayaki M, Tsubota K. Blue light injures corneal epithelial cells in the mitotic phase in vitro. Br J Ophthalmol, 98(7):990-992, 2014. 近紫外の青色可視光は、細胞増殖期にある眼球細胞に対しては障害性を有することを明らかにした。
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