ご挨拶

食学:健康と幸福をめざす「食べる」「食品」「栄養」の学際共創科学の創生

SHOKU-gaku: Transdisciplinary Science of Eating, Food, and Nutrition for Health and Wellbeing

東北大学大学院歯学研究科長 小坂 健

東北大学大学院歯学研究科長

小坂 健

2020年、東北大学大学院歯学研究科は、東北大学大学院農学研究科および宮城大学食産業学群と連携し、世界初の学際共創科学として「食学(Shoku-gaku)」を創生しました。「食学」という言葉は聞きなれないと思いますが、これは、食べ物の入り口である口腔の科学、すなわち「歯学」と、これまでの“食”の科学である「食品科学」と「栄養科学」を統合・融合した世界初の学問です。その活動拠点として「革新的食学拠点」を設置しました。

健康の“みなもと”は「食べること」です。超高齢化の進む日本、とくに高齢化が著しい地域が東北地方であることを考えた時、東北の地で、“食”に関する新しい学問が誕生することは、大変意義のあることと思います。一方、世界に目を転ずれば、今後、先進諸国を中心に高齢化が進むことは避けがたく、 “食”の問題は大きくなることでしょう。これはすべからく、SDGsの項目として掲げられていることでもあります。「食学」は、世界に先駆けてこれらの課題を先取りし、解決を図ろうというものであり、その役割はこれから益々重要になると考えます。

歯学研究科は、2002年に「インターフェイス口腔健康科学(Interface Oral Health Science)の概念を創出し、「口の再定義」を行いました。この20年、歯学の役割は口腔疾患の予防・治療から口腔と全身の健康増進へとその役割が大きく拡大してきました。健康を考える上で“食”はもっとも重要であり、口の学問である歯学は、健康増進の担い手として“食”の学問を行う責務があると考えます。ある意味、「食学」は、健康増進を目指すこれからの歯学の再定義の一つとも言えるのです。

「食学」は、医療・保健・福祉において、治療から予防・未病対策そして健康増進、幸福増進へとシフトさせ、今後、人類が直面する超高齢社会の持続的活性化を目指します。-いつでもどこでも(超高齢でも災害時でも)、おいしいものをおいしく食べて、生涯にわたり健康で幸福な生活を送る- これを実現するため、「食学」では、最先端の研究成果を社会へ還元する「社会との共創」を推進します。「食学」は、社会に実装され、社会で実証されてこそ、意義あるものになると考えるからです。多くの皆様のご理解とご支援、そしてご参加を、門戸を広く開けて、心よりお待ちしています。

東北大学大学院農学研究科長 北澤 春樹

東北大学大学院農学研究科長

北澤 春樹

東北大学農学研究科では、東北大学の建学の理念「研究第一」「門戸開放」「実学尊重」に基づき、人類が生きていくための「食料」「健康」「環境」を課題に取り組む生物の産業科学に関する教育と研究を行っています。

農学が抱える主な社会的課題の一つは、国内的には人口減少と少子高齢化に伴う農業従事者の減少と高齢化の進行により弱体化しつつある農林水産業・食品関連産業を成長産業へと転換し、食料の安定供給体制を構築することです。また地球規模での環境保全・自然共生も重要であり、持続可能で豊かな社会の実現が求められています。

こうした世界的規模で複雑な社会課題解決のためには、様々な学問領域が協力して研究を行う「学際的研究」が必要です。農学研究科では、学問領域横断で社会課題の解決を目指す「社会にインパクトある研究」(東北大学版SGDs活動)に参画して参りましたが、この発展形の一組織としてこのたび「革新的食学拠点」を創設いたしました。

「革新的食学拠点」ですが、「口から食べる・おいしく食べることで健康⾧寿を実現」することを目指しています。我が国は世界有数の長寿国ですが、必ずしも健康寿命が長いわけではありません。こうした社会課題を解決するため、宮城大学食産業学群、東北大学歯学研究科と連携し、「口腔科学」「食品科学」「栄養科学」等を融合させた世界初の学問である「食学」を創生しました。

超高齢化が急速に進む日本は課題先進国と言われるようになってきております。また地球温暖化による大規模災害も世界的に多発しています。こうした世界的課題に対し、超高齢でも、災害時でも、おいしいものを、おいしく食べて、健康で幸福な生活ができる社会を作って参ります。またこのことを実現するため、宮城大学食産業学群、東北大学歯学研究科との連携を基盤としつつ、国内外の研究機関とも連携し、新たな学問領域の確立と、研究成果の社会への還元を行います。

「革新的食学拠点」への皆様のご理解とご支援をお願いし、挨拶とさせていただきます。

宮城大学食産業学群長 井上 達志

宮城大学食産業学群長

井上 達志

宮城大学食産業学群は、東北大学大学院歯学研究科、東北大学大学院農学研究科と共に学際共創科学として「食学」を創生しました。当学群は、農畜水産物の「生産」から「食品加工」「流通」「サービス」、そして「消費」に至るフードシステム全般を食産業の視点から捉え教育・研究を進めております。

現在、65歳以上の高齢化率が29.1%と超高齢社会が進む我が国において、乳児から超高齢者までライフステージ毎に対応した高栄養価のオーダーメイド型食品の開発が益々求められてきております。そこには、食べる機能である「口腔」の状況、いわゆる「歯学」、そして分子機能や物性等の「食品科学」の要素が密接に関わって参ります。

当学群は、食産業学を自然科学分野や工学など理系学問と社会科学などの文系学問の両方から総合的に取り組むことを特徴としています。ICT・IoT・AI・ロボティクスを活用した農畜水産物システムや高付加価値農畜水産物を始めとする昆虫食などの新たなたんぱく食資源の開発などの生産基盤に関する研究に加え、分子調理手法やフードメタボロミクスによる食品の嗜好性、栄養機能性、加工特性に優れた食品の開発に関する研究、さらに、匂い・テクスチャーなどの食行動が消費者のニーズやマーケティングにどのような影響を与えるかなど、マーケットインによる食品開発の可能性を追求し、世界初の学際共創科学「食学」に取り組んでいきたいと考えております。

どうぞよろしくお願いいたします。