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若手研究者インタビュー
2020年12月11日掲載

アメリカ研究留学のご報告

歯科麻酔疼痛管理科(歯科口腔麻酔学分野)田中 志典 助教
2006年 東北大学歯学部 卒業
2011年 東北大学大学院歯学研究科 修了
2012年 東北大学大学院歯学研究科 助教
2016年 ペンシルベニア大学医学部 博士研究員
2020年 東北大学病院 助教

歯科麻酔疼痛管理科(歯科口腔麻酔学分野)のご紹介をお願いします。

 当科は病院歯科での全身麻酔、鎮静を担当しています。また、研究では気管支痙攣/喘息の新規治療法の開発や口腔顔面痛制御法の開発を主なテーマとしています。水田先生が2018年11月に教授に就任されて間もない、フレッシュな医局です。

この道に進んだきっかけについて教えてください。

 母親が歯科医師ということもあり、子供の頃から何となく歯学部に進学するものだと思っていました。実際に歯学を学び、咬合・咀嚼が認知機能に重要であるなど、口腔の健康が全身の健康維持に大きく寄与することが分かり、歯科医師としての仕事にやりがいを感じています。歯科麻酔では全身麻酔下歯科治療のマネージメントを担当しています。歯科治療恐怖症など通法下での歯科治療が困難な患者さんに対して全身麻酔下での歯科治療を行います。

歯学部卒業後、本学の大学院に進学されていますが、大学院進学のきっかけについて教えてください。

 学部5年生のとき、基礎研究実習というカリキュラムで3ヶ月間、基礎研究を体験することができました。それで実験の楽しさを学び、研究者になりたいと思い大学院に進学しました。口腔分子制御学分野(菅原教授)で金属アレルギーの研究などを行いました。現在、基礎研究実習のカリキュラムが短縮されていて、研究の楽しさにたどり着く前に実習期間が終わってしまうのではないかと危惧しています。

学部時代から、歯学研究科・歯学部の所属歴が長いですが、どのような点に歯学研究科・歯学部の魅力を感じますか。

 星陵キャンパスは研究設備が整っていて、研究環境が素晴らしいと思います。研究科内はもちろん、医学系研究科や農学研究科など、他の研究科の先生方と連携して研究が行いやすく、大学院に進学して以降、総合大学の良さを感じるようになりました。また、仙台は非常に住みやすい街だと感じていて、私にとってはそれも大きな魅力です。

海外留学されていたそうですが、留学のきっかけを教えてください。

 研究者として研鑽を積むため海外留学は重要なので、2011年3月に博士号取得後、長らく留学先を探していました。2014 年4月に日本学術振興会特別研究員PDに採用され、給与や研究費が日本から出るため留学しやすくなり、当時行っていた仕事がひと段落したところでようやく留学することになりました。大学院生時代、口腔分子制御学分野でお世話になった先生がペンシルベニア大学(Penn もしくは UPenn と略します)医学部に研究留学されており、その先生に私の留学先研究室を紹介してもらいました。2016年4月から4年間、留学していました。

留学先ではどのような研究をされていたのでしょうか。

 T細胞の分化や活性化機構を研究していました。免疫学研究の王道ともいうべき領域だったので、知見が蓄積しており、ついていくのが大変でした。細胞内シグナル伝達でタンパク質のリン酸化が重要であることはよく知られています。私はタンパク質のメチル化を行うPRMT5という酵素が、T細胞でどのような役割を果たすか調べました。そして、PRMT5がT細胞のサイトカイン応答性の維持に関わり、胸腺でのT細胞分化や末梢でのT細胞活性化に重要であることを見出しました。この結果は、PRMT5阻害が自己免疫疾患のようなT細胞の異常な活性化が関わる疾患の治療に有用かもしれないことを示唆します。

日本の大学・病院と留学先の大学・病院で違いなど感じましたか。

 アメリカはとにかく規模が大きいと感じました。UPennの免疫グループ(IGG, Immunology Graduate Group)だけで博士課程の学生が約80人、教員も同じくらいの人数がいます。医学系としては他に6つのグループがあります。IGGでは毎週金曜昼に持ち回りで各研究室が研究の進捗を発表するセミナーが開催されていて、レベルが高く圧倒されました。日本だと質問者は教員ばかりになりがちですが、アメリカだと学生も臆せず積極的に発言します。また、共通機器室(Core Facility)がよく整備されています。設備自体は日本も負けていませんが、機器の扱いに長けた専任の職員が十分な人数配属されていて、実験を手厚くサポートしてくれるのが大きな違いです。大学病院は先端医療技術の開発・導入に非常に積極的で、例えば最近話題のキメラ抗原受容体T細胞療法(CAR-T療法)はUPennで開発されました。

東北大学に戻り、現在はどのような研究をされていますか。

 留学前に花粉症などアレルギー性鼻炎の根本的な治療法である舌下免疫療法の研究をしていました。舌下免疫療法の効果発現には、T細胞の中でも免疫応答を抑制する働きをもつ制御性T細胞が関わっており、口腔粘膜の樹状細胞が制御性T細胞の誘導を担うことを明らかにしました。この知見を基に、口腔樹状細胞の機能を向上させ舌下免疫療法の効果を増強する方法の開発を進めています。また、歯科麻酔では周術期の気管支痙攣発作や気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)治療法の開発研究を行っています。最近の成果として、肥満者の血中に存在する長鎖遊離脂肪酸とその受容体 FFAR1 が肥満と気管支喘息を結びつける鍵分子であることを明らかにしました。私は免疫学研究の経験を活かし、長鎖遊離脂肪酸がどのように気管支喘息を誘発するか詳細な機序を明らかにし、肥満者に特異的に治療効果をもたらす新規気管支喘息治療法の開発に貢献したいと考えています。

歯学研究・教育を志す若手研究者・学生へメッセージをお願いします。

 私もまだまだ研鑽の身です。歯学研究科をより一層盛り上げられるよう共に頑張りましょう。

今後の抱負をお願いします。

 研究者人生で、何か一つ大きな発見をすることが目標です。それが将来臨床に役立てば尚嬉しいです。失敗を恐れず、新しいことに挑戦していきたいと思います。

(2020年12月発行のNEWSLETTER22号に掲載したインタビューの全文です。)

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